「社会貢献を掲げると利益が出ない」という思い込みは、従来のオールドエコノミーが抱えてきた最大のバイアスです。実態として、急速に業績を伸ばす社会派ベンチャーを分析すると、ソーシャルビジネスが儲かる仕組みの理由は、緻密に構築されたビジネスモデルの必然的な結果であることが分かります。
第一の理由は、「圧倒的に強固な顧客エンゲージメントとLTV(顧客生涯価値)の極大化」です。単なる機能競争や価格競争に巻き込まれる一般商品と異なり、ソーシャルビジネスが提供する商材は「購入すること自体が問題解決への参加である」という強力な情緒的価値を内包しています。消費者の意識がエシカル消費へと劇的にシフトした結果、顧客獲得単価(CAC)を低く抑えつつ、リピート率やサブスクリプションの継続率で並外れた高水準を叩き出すケースが相次いでいます。
第二の理由は、「これまで誰も手を付けなかった巨大な未開拓市場(ブルーオーシャン)への先行参入」です。従来の企業が「採算が合わない」と切り捨ててきた未充足ニーズ(Unmet Needs)を、テクノロジーや独自のサプライチェーン再設計によってマネタイズ可能な領域へと変革します。この思想の原点であり、世界最高峰の実証例となったのが、ムハマド・ユヌスとグラミン銀行の経緯です。
1970年代のバングラデシュで経済学教授を務めていたムハマド・ユヌス氏は、高利貸しの搾取に苦しむ貧困層の現実を目の当たりにし、担保を持たない極貧の農村女性たちへ無担保で少額資金を融資する「マイクロクレジット」を考案しました。当時の既存金融機関は「貧困層への融資など焦げ付くに決まっている」と嘲笑しましたが、5人一組の連帯責任グループを組成する相互扶助システムを導入した結果、グラミン銀行の融資回収率は驚異の98%以上を記録。2006年のノーベル平和賞受賞へと結実しました。ユヌス氏が自著や各国の記念講演で明かした「貧困層は怠惰なのではなく、金融システムから不当に疎外されていただけであり、正当な信用を与えれば最高のビジネスパートナーになる」という言葉は、ソーシャルビジネスが慈善ではなく高度な資本の再設計であることを証明しています。