アイシークリニックをはじめとする専門医療機関の解説資料によると、唇のトラブルが頻発する最大の根拠は、その特殊な解剖学的構造にあります。通常の皮膚は皮脂腺や汗腺から分泌される皮脂と水分が混ざり合い、「皮脂膜」という天然のバリアを形成して内部の水分蒸発を防いでいます。しかし、唇には皮脂腺・汗腺がほとんど存在しません。自ら油分を分泌して潤いを保持する能力が極めて脆弱な組織なのです。
さらに、角質層の厚さは頬などの通常の皮膚と比べて約3分の1(わずか数層程度)しかありません。通常の肌のターンオーバー(新陳代謝)が約28日周期であるのに対し、唇のターンオーバーはわずか3日〜5日という超ハイスピードで回転しています。新陳代謝が早いこと自体は傷の治癒にとって有利に働きますが、少しでも乾燥や摩擦によるダメージを受けると、未熟な角質が十分に成熟しないまま表面へ押し上げられ、カサカサとした不全角化の皮となって剥がれ落ちてしまいます。
ここで多くの人が陥る「負のループ」が、市販リップの塗りすぎによる物理摩擦です。唇の皮むけが治らない理由を取材すると、1日に十数回もリップクリームを横方向に往復させてゴシゴシと擦り付けている事例が目立ちます。摩擦そのものがデリケートな角質を削り落とす凶器となり、配合されているメントール、香料、紫外線吸収剤、防腐剤に対する接触皮膚炎(アレルギー反応)を引き起こして皮むけを加速させているケースが臨床現場でも多数報告されています。