監督を務めたのは、イギリス映画界の異端児でありフリー・シネマ運動を牽引した名匠リンゼイ・アンダーソンだ。社会派のリアリズムを得意とする彼が、老女優二人の繊細なドラマを演出する裏には、並々ならぬご苦労とドラマが存在した。
現場関係者が後年明かした秘話によると、ベティ・デイヴィスはアンダーソン監督の演出意図に対して度々疑問を呈し、撮影が一時中断することも珍しくなかった。デイヴィスが提示する強い主張と、ギッシュが醸し出す静かな佇まい。そのふたつの強烈な個性を調和させるため、アンダーソン監督は毎夜のように脚本の微調整を重ねたという。
「私は演技をしているのではない、そこに生きているのだ」と語ったリリアン・ギッシュ。カメラが回っていない時間でも二人の緊張関係は続いていたが、ラストシーンの撮影が終わった瞬間、デイヴィスがギッシュの手に静かに触れたという未公開の目撃談が残っている。孤高の女優たちが最後に見せたその敬意こそが、作品に深遠な余韻を与えている。