恐怖と芸術の境界線を語る上で欠かせないのが、ドイツ文学者・中野京子の一連の著作と、それを基図に大ヒットを記録した『怖い絵展』の存在だ。それまで「美しさ」や「様式美」の鑑賞に終始していた日本のアート・美術業界に、作品の背景に潜む歴史的悲劇や人間の業を読み解くという新たな視点を定着させた。
名画の裏に隠された毒、政治的陰謀、あるいは死への恐怖。解説文を一読した瞬間、穏やかに見えていた絵画が突如として凄惨な恐怖の舞台へと変貌を遂げる。『怖い絵展』が提示した知的な恐怖体験は、単なるお化け屋敷的ホラーとは一線を画し、絵画鑑賞のパラダイムシフトを巻き起こしたのだった。