文翔館の鑑賞において、単なるレトロ建築の枠を超えて注視すべきポイントは、当時の日本最高峰の職人技術が注ぎ込まれた細部の意匠です。
建物のシンボルである中央塔の時計台は、札幌市時計台に次いで日本で2番目に古い現役の大型塔時計です。機械部は1916年の創建当時から受け継がれたもので、現在も時計職人の手作業によって週に1回、分厚い重りを巻き上げることで正確な時を刻み続けています。保存復元工事の際には、失われかけていた機械部品の修復や文字盤の再現に熟練の時計職人が心血を注ぎ、大正の鼓動を現代へ蘇らせました。
さらに見逃せないのが、建物2階の「正庁(講堂)」に施された天井の漆喰(しっくい)装飾です。紅花やサクランボなど山形の特産品をモチーフにした繊細な花飾りが立体的に施されており、すべて熟練の左官職人が現場で手作業で仕上げた芸術品です。床面には、ケヤキやタモなどの異なる木材を狂いなく組み合わせた見事な寄木張りが広がり、歩くたびに素材の温もりが伝わってきます。