突然何の予兆もなく、まるで目に見えない存在から強烈な打撃を受けたかのように身動きが取れなくなる――。この現象に対し、ドイツ語圏では古くから「Hexenschuss(ヘクセンシュス=魔女の矢・魔女の一撃)」、イタリア語圏でも「colpo della strega(魔女の打撃)」という表現が使われてきました。中世ヨーロッパの民間伝承において、原因不明の突発的な病や激痛は「魔女が目に見えない弓矢を放って人間を呪った仕業」と信じられていたことに由来します。
一方、日本語の「ぎっくり腰」は、腰が「ぎくっ」と音を立てるように急激に痛んだという擬音・感覚的な表現が定着した通称です。医学的な正式名称は「急性腰痛症」と定義されています。
急性腰痛症の病態は単一ではありません。骨と骨をつなぐ「椎間関節」の捻挫、腰椎を支える「脊柱起立筋」や「多裂筋」「腰方形筋」の肉離れ(筋繊維の微小断裂)、あるいは筋肉を包む「筋膜」の急性炎症、椎間板の微細な損傷など、複数の要因が絡み合って生じます。レントゲン写真や一般的な画像診断では骨そのものに異常が映らないケースも多く、「画像には異常がないのに立ち上がることすらできない」という激しい痛みのギャップが、魔女の仕業と例えられた所以でもあります。