なぜマキマは、わざわざ自ら路地裏に先回りし、冷酷にレゼを急襲しなければならなかったのでしょうか。単なる「ソ連の刺客の排除」という公安防衛の任務だけでは説明がつかない異常な手回しの良さには、支配の悪魔(マキマ)の綿密な企図が隠されています。
最大の動機は、「デンジに自律的な幸福を与えないこと」です。マキマの真の目的は、デンジの心臓となっている「チェンソーの悪魔(ポチタ)」を手中に収め、自らの理想郷を創り出すことでした。ポチタとデンジは「デンジが普通の暮らしをして、夢を叶える姿を見せること」を条件に契約を結んでいます。もしデンジがレゼと共に逃亡し、田舎町で細やかな愛と平穏を享受してしまえば、デンジの絶望を利用してポチタとの契約を破綻させるというマキマの長期計画が根底から瓦解してしまいます。
さらに、レゼがデンジに語りかけた「学校へ行かせてあげる」「一緒に逃げよう」という誘惑は、デンジにとって生まれて初めて差し伸べられた「対等な他者からの救い」でした。マキマはデンジにとっての唯一絶対の存在でなければならず、デンジの精神を揺さぶる他者、とりわけ彼を本気で愛しかけたレゼの存在は、支配の悪魔にとって最も目障りな障壁に他ならなかったのです。