料理本で昔から謳われる「強火の遠火」という格言を、そのまま家庭の魚焼きグリルに当てはめて大失敗する事例が後を絶ちません。炭火であれば、強力な赤外線放射によって魚から30〜40cm離れた位置でも表面を一瞬で焼き固め、炭の燃焼による上昇気流で水分を効率よく飛ばすことができます。
しかし、家庭用の魚焼きグリルは庫内の容積が極めて小さく、バーナーと魚の距離はわずか数センチしかありません。この狭小空間で「強火」を作動させれば、遠火どころか「超強火の超近火」となり、中まで熱が到達する前に皮とヒレが炭化し、中心部は生焼け、外側はパサつきという最悪の結果を招きます。家庭用グリルにおける正解は、「予熱をしっかり行い、本焼きは中火をキープする」ことです。
また、「化粧塩」の扱いに関する誤解も根深く存在します。料亭のアジの塩焼きで尾ビレや背ビレが白く美しく保たれているのは、焦げ落ちるのを防ぐためにヒレにたっぷりと塩を塗りつける「化粧塩」を施しているからです。これを身の味付けと混同し、魚全体にすり込んでしまうと、塩分過多で食べられない状態になります。化粧塩はあくまで「焦げやすい薄いヒレを守る防護壁」として、ヒレ先だけに限定して施すのが鉄則です。
さらに「アジの塩焼き ふっくら焼く裏技」として水産現場で推奨されているのが、塩を振る前に日本酒(または酒と水を1:1で割ったもの)を全体に霧吹きで軽く吹きかける手法です。酒に含まれるアルコールが揮発する際に魚特有のアミン系臭気を共沸効果で連れ去り、同時に酒のアミノ酸が保水性を高め、驚くほど身をふっくらと仕上げてくれます。