山林での農作業やキノコ狩り、あるいは住宅地周辺で突如として遭遇したツキノワグマ被害の医療報告を分析すると、受傷者の大半が頭部・顔面に重篤な損傷を負っている実態が浮き彫りになります。人間がクマと対峙した際、本能的に前傾姿勢をとる、あるいは身を縮めて顔を覆う防御行動をとるものの、クマの強力な前肢の振り下ろし(爪による引っかき)や直接的な咬合は、頭蓋・顔面部へダイレクトに達します。
臨床症例の検討において確認された損傷パターンは、極めて凄惨かつ複雑です。傷口は直線的な切創ではなく、皮膚や皮下組織が引きちぎられる「挫滅・組織剥脱創」となり、広範囲の軟部組織欠損を伴います。さらに熊襲撃による顔面損傷の臨床症例の多くで、皮膚の直下に位置する表情筋群の断裂、耳下腺や涙道の断裂、さらには顔面神経麻痺を引き起こす神経主幹・分枝の切断が確認されています。
とりわけ深刻なのが、軟部組織の破壊と同時に発生する顔面骨骨折です。前肢による打撃エネルギーと牙による挟み込み圧力は、薄い眼窩壁、鼻骨、上顎骨洞前壁、下顎骨を粉砕します。13例の集計データにおいても、単なる皮膚縫合で完結した例はごく稀であり、約8割以上の症例で骨・神経・軟部組織に及ぶ「三次元的な複合再建」が必要とされる重症例でした。