なぜジンソクは凄惨な殺人を犯し、自らの記憶を消し去るに至ったのか。その背景には、1997年に韓国全土を襲ったIMF経済危機(アジア通貨危機)という過酷な時代背景が横たわっています。
当時、ジンソク一家は不慮の交通事故に遭い、両親は即死。最愛の実兄は重体となり、脳手術を受けなければ助からない絶望的な状況に追い込まれました。入院費の工面に奔走するジンソクに対し、ネットの掲示板を通じて「ある女性を殺害してくれれば大金を支払う」という闇の依頼が持ちかけられます。
依頼主は「母親だけを殺し、子どもたちには手を出すな」と指示していました。しかし、現場に踏み込んだジンソクは恐怖とパニックのあまり、目撃者となった娘(ユソクの姉)と母親の2人を刺殺してしまいます。生き残った幼い息子(ユソク)だけは見逃したジンソクでしたが、現場を後にする際、依頼主の写真を見て愕然とします。殺人を教唆した黒幕こそ、実兄の命を握る担当医その人だったのです。
その後、主治医は良心の呵責とジンソクとの揉み合いの末に病院の屋上から転落死。極限の罪悪感に精神が耐えきれなくなったジンソクは、記憶を完全に封じ込める解離性健忘に逃避しました。そして20年の歳月を経て、残された少年ユソクが真実を暴くためにジンソクを追い詰めたというのが事件の全貌でした。