炭治郎が水引のような柔軟さを持つ「水の呼吸」から、命を削る爆発力を秘めた「ヒノカミ神楽」へと舵を切った瞬間は、作品屈指の転換点でした。水の呼吸は万人向けの適応力を持つ優れた体系ですが、炭治郎自身の肉体と本質には完全に適合しておらず、刃の切れ味を極限まで引き出すことは叶いませんでした。
ヒノカミ神楽と日の呼吸は、本質的に同一の源流を持っています。しかし、その運用目的には決定的な違いがありました。「神楽」は過酷な寒冷地で夜通し舞い続けるための「極限の呼吸制御と無駄のない身体操作」であり、「日の呼吸」は無惨を滅するために研ぎ澄まされた「対鬼専用の実戦殺人剣術」です。炭治郎は父から教わった神楽のリズムを、死線の極限状態において剣技へと逆算・再翻訳していきました。
日輪刀の色の変化において、炭治郎の刀が漆黒に染まった際、育手の鱗滝左近次や刀鍛冶の鋼鐵塚蛍もその詳細を知りませんでした。歴代の柱たちの中でも黒刀の剣士が出世した例が少なかったため不吉と囁かれましたが、実際は「すべての属性の根源である日」を宿す器であったがゆえの黒でした。炭治郎は戦いの中で禰豆子の「爆血」による補助を受け、さらには己の握力のみで刀身の温度を上昇させ、鬼の超回復を根こそぎ焼き尽くす赫刀へと昇華させたのです。