ふたりの出会いは、運命というよりは「事故」に近かったのかもしれない。
当時、若手人気俳優としてアイドル的な注目を集めていた小栗旬に、演劇界の巨匠・蜷川幸雄が突きつけたのは、容赦ない試練の数々だった。「下手を歌え」「お前なんか客寄せパンダだ」――耳を疑うような怒声が、静まり返った稽古場に響き渡る。客席から灰皿やペットボトルが飛んでくるのは日常茶飯事。生半可な気持ちで稽古場に立った若者は、一瞬で自我を砕かれ、絶望の淵へと叩き落された。
だが、その「劇毒」とも言える過酷な指導の裏には、蜷川なりの明確な狙いがあった。人気に甘んじ、チヤホヤされる若手のメッキを叩き割り、剥き出しの人間性を舞台上に引っ張り出すこと。小栗はその恐怖に背を向けることなく、喰らいついた。「悔しい」「見返してやる」――その執念だけが、10代から20代へと向かう彼の足元を支えていたのだった。