JALの機体デザインの歴史において、最大の転換点であり最大の議論を巻き起こしたのが、2002年から2011年にかけて採用された「太陽のアーク(The Arc of the Sun)」です。半世紀近くにわたり日本の空の代名詞であった鶴丸を完全に消滅させたこの決定には、当時の航空業界再編に伴う極めて政治的かつ組織論的な背景が存在していました。
JAS統合時の塗装変更の真相は、旧日本航空と旧日本エアシステム(JAS)の実質的な救済・対等合併に端を発します。当時、国内線シェア第3位だったJASと第1位のJALが経営統合するにあたり、経営陣が最も腐心したのが「旧JAS社員の融和」と「新会社としての一体感の創出」でした。
旧JALのシンボルである「鶴丸」をそのまま存続させれば、旧JAS側から見れば「JALによる一方的な吸収合併」「勝者と敗者の構図」が色濃く残ってしまいます。組織心理学において、大規模なM&A後の企業統合(PMI:Post Merger Integration)を成功させるためには、双方の過去の力関係をリセットし、共通の新たなアイデンティティを掲げることが定石とされます。当時の経営陣は、あえて絶対的なブランド資産であった鶴丸を封印し、両社がひとつになる新しい夜明けを意味する「太陽のアーク」を全面に打ち出す決断を下したのです。
しかし、このデザイン変更は航空ファンや一部の利用者から激しい反発を受けました。「JALらしさが消えた」「どこの国の航空会社かわかりにくい」といった厳しい声が寄せられただけでなく、現場のパイロットや客室乗務員の間でも、長年誇りとしてきた鶴丸への愛着を捨て去ることへの心理的抵抗が少なからず残存していました。