貴景勝といえば、身長175cmと大相撲の世界では決して大柄ではない体格を、圧倒的な突き押しと強靭な下半身でカバーし、大関まで上り詰めた押し相撲のスペシャリストです。その頑強な肉体の礎を築いたのは、まぎれもなく母・純子さんの手料理でした。
相撲界で生き残るため、小学生の頃から徹底した増量作戦が敢行されました。外食や出来合いの惣菜に頼るのではなく、「身体に入るものはすべて母の手で安全かつ栄養価の高いものを」という方針のもと、純子さんは毎日台所に立ち続けました。夕食には450gの特製ハンバーグが3個並び、牛肉ステーキは1kg、さらに鍋料理や白米が洗面器のような大鉢で振る舞われるという、常軌を逸した食事量が日常茶飯事だったのです。
スーパーの精肉売り場に通い詰め、店員から業者と間違えられるほどの肉を買い込む日々。増量が思うように進まず、涙を流しながら食べる息子の背中をさすりながら、純子さんは「途中で投げ出させないための工夫」を凝らし続けました。ポン酢の味付けを変えたり、出汁の風味を工夫したりと、少しでも喉を通りやすくするための試行錯誤は、まさにアスリートを支える専属栄養士そのものでした。