この館が光を当てるのは向田邦子一人にとどまらない。日本近代文学の歴史に燦然と輝く文豪たちの足跡もまた、豊かなグラデーションをもって紹介されている。『放浪記』で知られる林芙美子は、命の燃焼を感じさせる力強い筆致で時代を駆け抜けた。彼女が残した言葉の端々には、薩摩の血脈や過酷な流浪の生活から培われた骨太な生のエネルギーが脈打っている。
一方で、歴史小説の巨匠・海音寺潮五郎の展示コーナーでは、史実を掘り下げ人情を描き切った男たちのドラマが熱く迫ってくる。風土と人間の関わりを深く見つめ直す試みは、地域に根ざした近代文学の厚みを教えてくれる。激動の時代をたくましく生き抜いた書き手たちの原動力はどこにあったのか、その答えを探す旅がここにある。