なぜ「笑」や「筆」は竹冠なのか?漢字の謎と一覧・難読を徹底解剖

なぜ「笑」や「筆」は竹冠なのか?漢字の謎と一覧・難読を徹底解剖

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竹冠の漢字を俯瞰した際、誰もが一度は直面する最大の謎が「感情表現である『笑』」や「木工品の代表格である『箱』」になぜ竹が使われているのかという疑問です。この疑問には、数千年の時を経て俗説と学術研究が交錯してきた興味深いドラマが存在します。

中国最古の部首別漢字字典である後漢の『説文解字(せつもんかいじ)』(許慎編纂)では、「笑」について「竹が得風して、長弱屈辱するさま、人に似て笑う」と解説されています。つまり、「風が吹いて竹がしなやかに揺れ動く姿が、人間が体を震わせて笑っている姿に似ている」という解釈です。この説明は非常に情緒的で美しいため、長らく通説として語り継がれてきました。

しかし、甲骨文字や金文の出土資料を網羅的に再検証した漢字学者・白川静氏(京都大学名誉教授)の古代文字学は、このロマンチックな通説を覆しました。古代文字の発見によれば、「笑」の上部はもともと植物の竹ではなく、巫女が神降ろしの儀式において、両手を激しく振り乱し、頭髪の飾りを揺らしながら狂喜乱舞する姿を表した「夭(よう)」の変形でした。古代の祭祀において、神霊を喜ばせ、神の加護を得るために神前でトランス状態で舞い踊る巫女の狂態、すなわち「神を招く笑い」が原義だったのです。この巫女の頭飾りや手の激しい動きを描いた象形が、文字の標準化(隷書・楷書化)が進む過程で、字形の類似から「⺮」へと誤って統合されてしまったというのが、現代漢字学における有力な真相です。

一方、「箱(はこ)」が竹冠である理由にも、古代の生活様式が直結しています。「箱」のつくりである「相」は「木」と「目」を合わせた字で、木を注意深く観察する、あるいは向かい合うことを意味します。古代中国において、物を収納する容器は木をくり抜いた重厚なものではなく、竹を薄く裂いて編み上げた「竹籠(たけかご・筥)」が日常の主流でした。特に馬車や牛車の上に積んで荷物を運ぶための竹製ケースを「箱」と呼んだのが始まりです。木製の頑丈な四角い入れ物を「箱」と呼ぶようになったのは後世の転用に過ぎず、文字が誕生した瞬間は軽快で通気性に優れた竹編みカゴこそが「箱」の正体でした。

中村 さくら
著者

中村 さくら

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。