日本全国に数ある洋食店の中でも、オムライス発祥の地として公に認められている北極星の歩みは、大正時代にまで遡ります。北極星の創業の経緯と歴史を紐解くと、始まりは1922年(大正11年)、創業者である北橋茂男氏が大阪市港区潮見町に開いた小さな洋食店「パンヤの食堂」でした。当時、洋食はまだ庶民にとって高嶺の花であり、創業者は「安くて栄養があり、誰からも愛される洋食を提供したい」という情熱を燃やしていました。
そして1925年(大正14年)、食文化史に残る世紀の瞬間が訪れます。当時、店へ頻繁に通っていた近所の雨具屋の主人・小高さんという常連客がいました。小高さんはいつも胃の調子が悪く、胃腸に負担をかけないよう、来る日も来る日も白ご飯とオムレツばかりを別々に注文して食べていたのです。毎日同じものを黙々と食べる小高さんの姿を見た北橋茂男氏は、「いつも同じものでは気の毒だ。なんとか美味しく、体に優しく食べられるものを作れないか」と心を痛めました。
これこそがオムライス発祥の理由でした。茂男氏は厨房で機転を利かせ、ケチャップで炒めたライスを薄焼きの卵でふんわりと包み込み、特製のトマトソースを添えて小高さんの前に差し出しました。驚いた小高さんが「これは何という料理や?」と尋ねたところ、茂男氏はとっさに「オムレツとライスを合わせたから、オムライスでっせ」と笑顔で答えたと伝えられています。一人の常連客への細やかな優しさと職人の即興性から、日本のソウルフード「オムライス」が産声を上げたのです。
その後、店名は1936年(昭和11年)に「北極星」へと改称されました。これは当時の文部大臣であった永井柳太郎氏が「生活の道標となる北極星のように、人々の暮らしを照らす存在であれ」と激励し揮毫したことに由来しています。2026年を迎えた現在も、この創業の理念とおもてなしの精神は、心斎橋本店の厨房で寸分違わず息づいています。