『美味しんぼ』の軸といえば、山岡士郎とその父であり稀代の美食家・海原雄山との相克、そして「究極のメニュー」対「至高のメニュー」の対決だ。海原雄山が要求する妥協なき美意識と料理の芸術性は、時に苛烈で圧倒的な緊張感を物語にもたらす。
しかし、本作が単なる美食主義の漫画に終わらなかったのは、「トンカツ大食い勝負」のような人情話が随所に挟み込まれていたからにほかならない。海原雄山が追及する完璧な味世界の一方で、山岡士郎が見つめたのは「人が生きるための食」だった。どれほど金を持とうが、大威張りをしようが関係ない。日々の糧を得て、つつましくも誇り高く生きることの尊さ。親子の愛憎劇の裏側で描かれたこの人間愛こそが、作品に深みを与えている。