2017年の大ブレイクからわずか3年、なぜ彼女は芸能界の最前線を離れる決断を下したのでしょうか。関係者への取材や当時の手記から浮かび上がるのは、虚構のキャラクターと生身の人間性との深い心理的断絶です。
もともと岡山県出身の彼女は、島根大学教育学部へ進学(のちに中退)し、教員を目指す文学少女でした。その後、劇団や音楽活動を経てワタナベコメディスクールに入学した経歴を持ちます。ブレイクの原動力となった「35億 ネタ」は、メイクや演出を含めて緻密に構築されたひとつの舞台演劇のような作品でした。しかし、ひとたび大衆に認知されると、テレビ界は彼女に対して四六時中「傲慢で恋愛強者のキャリアウーマン」であり続けることを求めました。
当時の特番インタビューや自著で語られた「本当の私は、自己主張が苦手で、一人で本を読み、静かに暮らしたい内向的な人間だった」という告白は、急速に膨れ上がったパブリックイメージに心が悲鳴を上げていた実態を物語っています。バラエティ番組特有の雛壇トークや、他者をいじることで成立する笑いの構造にどうしても順応できず、収録が終わるたびに激しい自己嫌悪に苛まれていたといいます。
この精神的な負荷を清算すべく決断したのが、2020年4月に予定されていたイタリア留学でした。語学や西洋美術を学び、自分自身の輪郭を取り戻すための留学でしたが、折悪しく世界的な感染症の流行が直撃。渡航は無期限延期を余儀なくされました。留学という物理的な避難所を失いながらも、彼女は事務所への残留を選ばず、予定通り2020年3月31日をもって契約を終了。芸能界という安全網を自ら断ち切る形で、独立を果たしたのです。