日本語の動詞活用の大原則において、終止形は基本的に「ウ段音(書く=ku、読む=mu、起く=ku)」で終わります。しかし、古文文法の中で唯一の例外として終止形がイ段音の「〜り」で言い切る動詞群が存在します。それが「ラ行変格活用動詞(ラ変動詞)」です。
言語学的な研究データや日本語史の定説によると、ラ変動詞の根底にはすべて原初動詞である「あり(存在・状態を表す)」が組み込まれています。それぞれの語源構造を分解すると、その実態が浮き彫りになります。
- あり(有り・在り):すべての基本となる存在動詞。「〜が存在する、生きている」。
- をり(居り):「居(ゐ)+あり」が母音融合して「をり」へと変化したもの。「座っている、じっとしている、存在する」。
- はべり(侍り):「はひ(這ひ・侍ひ)+あり」が縮約されたもの。身分の高い人のそばに控える意から、丁寧語・謙譲語へ発展。
- いまそかり(座す・在す):「いま(今)+す(為)+あり」あるいは「います(居ます・坐す)+かり(ありの語幹結合)」から派生した最高度の尊敬語。
つまり、「をり」「はべり」「いまそかり」はすべて「あり」から派生した兄弟関係の単語に過ぎません。日本語の動詞体系の中で「あり」一族だけが古代の古い音韻形態(終止形が-i音で終わるシステム)を強固に保ち続けた結果、平安時代以降の文語文法において「この4語(およびその派生語)のみが変格活用として残った」というのが言語学的な真相です。