この説話が古典文学として傑出しているのは、袴垂の内面描写が極めてリアルに描かれている点です。読解問題でも問われやすい袴垂の心情変化のプロセスは、以下の4段階で整理できます。
ステップ1:油断と欲望(獲物を見つけた高揚感)
夜道で無防備に笛を吹く単独の男を発見し、「簡単に衣服を奪える格好の獲物だ」と甘く見積もります。
ステップ2:困惑と焦燥(想定外の無反応への苛立ち)
背後に迫っても相手がまったく怯えず、逆に隙のない気配を見せるため、攻撃の糸口を掴めず動転し始めます。
ステップ3:恐怖と呪縛(抗えない追従状態)
間合いを詰めることすらできず、保昌の放つ見えない威圧感に引きずられるように、ただ後ろをついて歩くことしかできなくなります。
ステップ4:完全屈服と畏怖(精神の完全破壊と心服)
屋敷の前で声をかけられた瞬間に戦意を完全喪失し、跪いて正直に白状します。さらに温情で着物を与えられたことで、保昌という人物の底知れなさに生涯消えない恐怖を刻み込まれました。