市川中車の歩みを理解するうえで欠かせないのが、複雑な市川中車の家系図と梨園への挑戦劇です。中車は三代目市川猿之助(後の二代目市川猿翁)と女優・浜木綿子の長男として誕生しましたが、幼少期に両親が離婚したため、歌舞伎とは無縁の環境で育ちました。東京大学文学部を卒業後、香川照之として俳優デビューし、日本を代表する名優へと登り詰めます。
転機が訪れたのは2011年、46歳の時でした。「自分自身のルーツである澤瀉屋の血脈を息子の世代へ繋ぐ」という強い信念のもと、2012年に九代目市川中車を襲名。同時に長男の政明も五代目市川團子を名乗り、親子揃って歌舞伎界へ進出しました。
従兄弟にあたる四代目市川猿之助との関係は、かつて澤瀉屋を二人三脚で盛り上げる強力なタッグでした。しかし、2023年に起きた猿之助の事件以降、一門の存続と後進の育成という重責が中車の肩に重くのしかかることになります。血縁と伝統を次世代へと引き渡すという襲名当時の決意が、今まさに試されているといえます。