外部に対しては冷徹無比な鉄の男として映る平蔵ですが、私生活における家庭内の力学には、作品のファンを惹きつけてやまないギャップが存在します。その鍵を握るのが、妻である服部静華(旧姓:池波静華)の存在です。
静華は、かつて京都の旧家に生まれ、卓越した美貌を持ちながら剣道五段の腕前を誇る和風美女。犯人が振り下ろした日本刀を閉じた扇子一本で白刃取りするほどの神業の持ち主です。外では泣く子も黙る大阪府警本部長である平蔵も、家庭内ではこの静華に対して完全に頭が上がりません。普段の近寄りがたい威圧感が妻の前では一変し、どこかバツの悪そうな表情を見せる場面は、ファンの間でも語り草となっています。この「恐妻家」的一面があるからこそ、平蔵は単なる冷徹な権力者ではなく、愛嬌と人間味を備えたキャラクターとして読者に愛され続けているのです。
一方、息子である服部平次との関係性は、一見すると不器用で厳しい「父と息子」そのものです。平蔵は平次に対して決して甘い言葉をかけず、探偵気取りで危険に首を突っ込む息子を容赦なく叱責します。しかし、その根底にあるのは警察官としての冷厳な現実感覚です。「犯人を推理で追い詰めて自殺させたら、殺人犯と何ら変わりない」という平蔵の教えは、かつて麻生成実を救えなかった痛恨の記憶を持つコナンの心にも深く突き刺さり、平次の探偵としての倫理観を形作る決定的な道標となりました。