食の外部化が進み、コンビニエンスストアやデパ地下の惣菜が食卓を埋める時代だからこそ、土の匂いが残る旬の野菜を煮含める行為に一種のデトックスを見出す生活者が多い。長寿番組『きょうの料理』でも、春の王道食材を取り上げる回は常に視聴者の熱い反響を呼ぶ。画面越しに伝わるコトコトという煮炊きの音、湯気とともに立ち上る出汁の香り。そこに人々が求めているのは、単なる栄養補給ではなく、季節感を失いつつある日常を取り戻すための儀式に他ならない。
ユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、日本の食文化は世界中から熱い視線を浴び続けている。だが足元を見つめ直せば、家庭で日常的に乾物や生木を扱う風景は確実に失われつつあった。その危機感と逆行するように、週末にじっくり時間をかけて出汁を取り、旬の食材と向き合うムーブメントが広がりを見せる。日本の春を味わい尽くす行為は、現代人にとって失われかけた五感を呼び覚ます最も身近なクリエイティブな作業なのだ。