『惚れた女が死んだ夜は』が世に送り出されたのは1997年(平成9年)10月22日。日本クラウンからリリースされたシングル作品です。小林旭といえば『熱き心に』(阿久悠作詞・大瀧詠一作曲)や『昔の名前で出ています』など、名だたる大作家陣の提供曲を歌いこなしてきた歌謡界の巨頭ですが、本作の特筆すべき点は作詞・作曲クレジットが「小林旭」本人である点にあります。
映画『渡り鳥』シリーズなどで一世を風靡したアクションスターとしての骨太さと、波乱万丈の芸能生活を生き抜いてきた男の年輪。それらが円熟期を迎えた50代後半の小林旭だからこそ紡ぎ出せた私小説的リアリズムが、この楽曲の土台となっています。
制作当時の音楽業界はJ-POPのミリオンセラーが連発していた過渡期。演歌・歌謡曲チャートが若年層向けポップスに押されるなか、小林旭は流行に一切迎合せず、無骨で湿度のある「男の挽歌」を提示しました。自らの声質、ブレスのタイミング、言葉の語気まで知り尽くしたセルフプロデュースだからこそ、一切の無駄を削ぎ落とした研ぎ澄まされたメロディラインが完成したのです。