食文化の取材現場において、東西の境界線で必ず議論になるのが「関西地方における呼称問題」です。
大阪や京都を中心とする関西エリアの街中華や大衆食堂では、夏の訪れを告げる短冊ポスターに「冷麺はじめました」と書かれていることが日常茶飯事です。しかし、運ばれてくる料理は牛骨スープの韓国冷麺ではなく、黄色い中華麺に錦糸卵と細切りハムが乗り、甘酸っぱいタレがかかった「冷やし中華そのもの」です。
この地域差が生まれた理由は、大正から昭和初期にかけて関西に伝わった際、「冷やした中華麺料理」を簡潔に「冷麺」と略して呼ぶ習慣が先に定着したためとされています。その後、昭和後期に焼肉文化の隆盛とともに朝鮮半島由来の「本格冷麺」が全国へ普及したことで、関西圏では「中華料理屋の冷麺(=冷やし中華)」と「焼肉屋の冷麺(=韓国冷麺・盛岡冷麺)」という2つの意味が共存する状況が生まれました。
現代ではコンビニエンスストアの全国的な商品統一やグルメサイトの普及により、「冷やし中華」という呼び名も広く浸透していますが、老舗中華店を訪れる際はメニューの写真を事前に確認しておくと食い違いを防げます。