「今まさに便器の中に流したいものがある」という危機的状況において、タンクの修理に何十分も費やすわけにはいきません。水道業者を呼ぶ前やすぐに部品を用意できない緊急時には、以下の確実な応急処置で汚水を排出してください。
最も安全かつ即効性のある方法は、バケツを使った水流しです。洋式便器は、排水路が一度せり上がってから下へと落ちる「サイフォン管構造」になっています。タンクからの水流がなくても、上から一定量以上の水が一気に流し込まれれば、気圧差と重力によって自動的に汚水を吸い込む「サイフォン現象」が発生します。
具体的には、バケツに6〜8リットル程度の常温の水を用意します。便器の周囲に新聞紙やビニール袋を敷いて水ハネを防いだ上で、便器の「水たまり中央部」を目掛けて、高い位置から少し勢いをつけて一気に水を注ぎ込みます。ゴボゴボという音とともに水が引き込まれたら、最後に封水(下水の臭いを防ぐための水たまり)を保つために、静かに3〜4リットルの水を足してください。
もう一つの裏ワザは、タンクのフタを慎重に外し、手動でフロートバルブを開く方法です。タンク内部を覗き込み、底にあるゴム玉から伸びているチェーンを手で真上に引き上げます。チェーンが切れている場合は、ゴム玉の端を直接つまんで持ち上げれば、タンク内の水が一気に便器へと抜けていきます。ただし、作業の際はゴムの溶解成分で手が黒く汚れるため、薄手のゴム手袋やビニール袋を手に装着して行うのが賢明です。
一方で、焦るあまりやってしまいがちな「絶対NGな行動」が3点存在します。
- 熱湯を便器に注ぐこと:「汚れが早く落ちそう」と60度以上の熱湯を注ぐと、陶器の急激な熱膨張(ヒートショック)により、便器が一瞬で粉々に割れる大事故に繋がります。
- 重い陶器製のフタを乱暴に扱うこと:トイレタンクのフタは想像以上に重く、滑りやすい陶器で作られています。取り外す際に手が滑って便器や手洗いボウルに落とすと、陶器同士が激突して両方とも割れてしまい、数十万円の修繕費用へと被害が拡大します。
- スカスカのレバーを力任せに何度もガチャガチャ回すこと:内部で引っかかっているアームを無理に回すと、レバー軸が完全に折損し、軽微だったはずの不具合が部品全交換へと発展します。