長年にわたり病気と共存しながらドラマや映画に出演し続けたマイケルが、2020年に俳優業の引退を決断した背景には、身体の運動障害だけでなく「短期記憶の減退」という切実な問題がありました。
彼が自著『No Time Like the Future』で明かしたところによると、撮影現場で長いセリフを覚えたり、瞬時に言葉を思い出したりすることが極めて困難になったといいます。クエンティン・タランティーノ監督の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中で、レオナルド・ディカプリオ演じる俳優がセリフを忘れて取り乱すシーンを観た際、マイケルは「自分はみっともなくパニックになるのではなく、静かに受け入れて身を引くべきだ」と悟ったと振り返っています。
「セリフを覚えることが自分の最大の武器だった。それができなくなったのなら、次に進むべき時だ」という決断は、同情を拒み、常にプロの表現者であり続けたマイケル・J・フォックスならではの潔い引き際でした。