トルコ現地で「ドンドゥルマ(Dondurma=凍らせたもの)」、正式には発祥の地にちなんで「マラシュ・ドンドゥルマ」と呼ばれるこの氷菓の最大の特徴は、一般的なアイスクリームの概念を覆すゴムのような弾力と粘度です。このトルコアイスの伸びる理由の根幹を握っているのが、ラン科植物の塊根を乾燥・粉末化した伝統原料「サーレップ(Salep)」です。
アナトリア半島南東部のカフラマンマラシュ地方に自生する野生のランは、厳しい寒暖差を生き抜くために地下の塊根部分に高濃度の粘性多糖類「グルコマンナン」を蓄えます。現地農家が手作業で収穫した塊根を湯通しして天日乾燥させ、細かく粉砕したサーレップを山羊(ヤギ)のミルクと砂糖に加えて加熱すると、グルコマンナンの分子鎖が水分を抱え込んで網目状の強固なコロイド溶液を形成します。
冷やし固める過程において、職人が巨大な鉄製のヘラを用いて空気を含ませながら何千回、何万回と激しく打ちつけ、練り上げる工程を繰り返します。この機械的せん断によって、サーレップの粘性多糖類と山羊乳の脂肪球・タンパク質が強固に絡み合い、微細な気泡を包み込んだ高密度の立体網目構造が完成します。これが、スプーンですくった瞬間にまるでトルコ蜜飴や餅のようにどこまでも伸び続けるトルコアイスの仕組みの真相です。
さらに、多くの人が疑問に抱く「トルコアイスが溶けにくい理由」もこの立体構造に直結しています。一般的なアイスクリームは氷の結晶が熱で融解すると瞬時に骨格が崩れ、液体となって流れ出します。しかしドンドゥルマの場合、サーレップの多糖類ネットワークが溶け出した水分と脂肪分を強固にホールドし続けるため、外気温が35度を超える猛暑環境であっても形状が液状崩壊せず、柔らかなモチモチ感を保ち続けるのです。