居酒屋の短冊メニューで誰もが見かける「とん平」という名称。その語源は、極めて明快かつ実直な調理工程に根ざしています。「豚(とん)を平(ひら)たく焼いたもの」を略して「とん平」と名付けられたのが定説です。
この料理の生みの親とされているのが、大阪・曾根崎のお初天神通り商店街に店を構える「元祖 本とん平」の創業者です。当時の関係者記録や店側の伝承によると、創業者は戦時中に旧ソ連の捕虜収容所(シベリア抑留)での生活を経験しました。その過酷な極寒の地で目撃したロシア兵たちの食事風景――豚肉を鉄板やフライパンで平たく押しつぶすように焼き、手近な食材とともに素早く炒めていた光景が強く脳裏に焼き付いていたといいます。
復員後、食糧難の時代に「安くて栄養価が高く、何より手早く提供できて旨いものを」という熱い思いから、豚肉の塊を押し板で平らに叩き伸ばし、溶き卵で包み込んで焼き上げるオリジナル料理を考案。これが現在の「とん平焼き」の原型となりました。現在では関西居酒屋の定番メニューとして日本全国に定着していますが、そのルーツには戦後の復興期を生き抜いた料理人の知恵とタフな現場観察が息づいています。