現場の薬剤師や救急医が日常的に警鐘を鳴らし続けているにもかかわらず、一般ユーザーの自己判断で最も多発している危険な誤用が「腹痛にロキソニンやイブなどの頭痛薬(解熱鎮痛薬)を飲む行為」です。
「痛みを止める成分なのだから、お腹の痛みにも効くだろう」と考えるのは大きな誤解です。ロキソプロフェンやイブプロフェンなどの「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」は、炎症や痛みを伝えるプロスタグランジンという物質の生合成を抑制します。しかし、このプロスタグランジンは胃粘膜を保護し、胃壁の血流を保つために極めて重要な役割を果たしています。
つまり、腹痛にロキソニンを投入すると、胃粘膜のバリア機能が破壊され、自身の強力な胃酸によって胃壁が直接えぐられる結果となり、激しい胃痛や胃潰瘍を引き起こす火種を自ら撒くことになります。
さらに深刻なのは、「重大な疾患の初期サインを覆い隠してしまう(マスキング効果)」というリスクです。急性虫垂炎(いわゆる盲腸)や胆嚢炎、消化管穿孔(胃や腸に穴が開く病気)といった外科手術が必要な重篤な病態の初期に鎮痛薬を自己判断で服用すると、本来感じるべき痛みが一時的に鈍化し、手遅れの腹膜炎になってから搬送される事態を招きます。
また、「深夜に腹痛が起きたからコンビニで薬を買おう」と駆け込むケースも注意が必要です。コンビニエンスストアで深夜に販売できるのは「指定医薬部外品」に区分される一部の健胃清涼剤や整腸薬(新ビオフェルミンS指定医薬部外品版など)に限られます。ブスコパンやストッパのような「第2類医薬品」を販売するには登録販売者や薬剤師の常駐が必要であり、夜間のコンビニで急場をしのぐ即効薬を入手するのは現実的に極めて困難です。