患者が最も恐れるのは「透析を始めると余命は数年しかないのではないか」という疑問です。しかし、日本透析医学会が毎年公表している大規模統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」を詳細に読み解くと、世間のイメージとは異なる実態が浮かび上がってきます。
同学会の最新統計データによると、透析患者全体の5年生存率は約60〜65%、10年生存率は約35〜40%と報告されています。この数字だけを切り取ると「やはり長生きできないのか」と受け取られがちですが、ここには統計上の大きなカラクリが存在します。
現在、日本で新たに人工透析を導入する患者の平均年齢は71歳を超えており、透析患者全体の平均年齢も70歳に達しています。つまり、もともと高齢で、心不全や重度の糖尿病、動脈硬化といった重大な合併症を抱えた状態で透析を開始するケースが大多数を占めているのです。高齢者の自然な平均余命が反映されているため、全体の生存率が見かけ上低く算出されます。
一方で、40代や50代の現役世代で導入した患者の場合、適切な体重管理と透析管理を行っていれば、透析歴20年、30年を超えて健康的な生活を維持しているケースは決して珍しくありません。国内には透析歴50年を超える長期生存者の報告も存在します。
透析そのものが直接の死因となるわけではありません。患者の主な死因は、心不全(約23%)や感染症(約21%)、悪性腫瘍(約9%)、脳血管障害などです。透析機器の進化によって老廃物の除去性能が飛躍的に向上した2026年現在、過度な水分管理の乱れや感染症を防ぐ自己管理さえ維持できれば、天寿を全うすることは十分に可能な医療となっています。