東京のシード期からシリーズB期前後のスタートアップ界隈を取材すると、「神頼みなど無意味だ」と公言していた若手起業家ほど、ある時期を境に定期的な神社参拝へと傾倒していく現象が確認できます。彼らの手記や非公開の起業家コミュニティでの証言を突き合わせると、そこには極限状態を経験した者特有の現実的な実感がありました。
FinTech企業を創業し、2025年に数十億円規模のエグジットを果たした30代のCEOは、自著のインタビューで次のように打ち明けています。
「シードラウンドの資金調達が難航し、月末のキャッシュアウトまで残り2週間を切ったとき、共同創業者に手を引かれて日本橋の小網神社へ向かいました。論理的な事業計画書は作り尽くした。最後は『やり切った自分たちがブレないための覚悟』を神前で誓ったのです。その3日後、それまで返答を保留していたベンチャーキャピタルから突然リード投資の連絡が入りました。オカルトと言われればそれまでですが、あの参拝を境に社内の焦燥感が消え、チームの視界が澄み渡ったのは紛れもない事実です」
また、起業の成功を祈願する東京の神社として近年急浮上しているのが、新宿・新大久保に位置する皆中稲荷神社です。江戸時代、鉄砲百人組の下士が射撃の腕前上達を祈願したところ百発百中となった故事から、「当てる」ご利益が語り継がれています。現代では「マーケティング施策の的中」「難関採用の成功」「重要コンペの勝率アップ」を狙うベンチャー幹部が足繁く通い、絵馬には「大型資金調達の満額達成」や「新規プロダクトの市場適合(PMF)」といった極めて具体的な目標が書き連ねられています。
さらに、赤坂の豊川稲荷東京別院(神社ではなく曹洞宗の寺院)は、ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)をはじめとする芸能関係者や、広告代理店・Webマーケターの間で「即効性の高い人気運・集客運」を呼ぶ聖地として絶対的な信頼を誇ります。狐の眷属を祀る奥の院の張り詰めた空気感は、他社との激しい差別化競争に晒されるクリエイティブ系経営者の精神を研ぎ澄ます役割を果たしています。