日本郵便が今回の値上げへと踏み切った最大の要因は、郵便事業の深刻な赤字構造です。総務省の情報通信審議会における答申や日本郵政グループの決算資料を紐解くと、放置すればユニバーサルサービス(全国一律の郵便配達網)の維持が破綻しかねない切迫した実態が浮かび上がってきます。
値上げが決定された背景には、主に3つの構造的要因が存在します。
第1に、デジタル化に伴う郵便物数の急激な減少です。電子メールやSNSの普及に加え、ビジネス領域での電子契約、請求書のWeb発行、行政手続きのオンライン化が進展しました。国内の郵便物数は2001年度のピーク時(約262億通)からほぼ半減し、年間数億通のペースで縮小し続けています。固定費の塊である集配ネットワークを維持する一方で、肝心の利用数量が激減するという構造的不全に直面していました。
第2に、物流業界における人件費・燃料費の高騰と「物流の2024年問題」です。トラックドライバーの時間外労働規制強化に伴う輸送コストの増加、地域拠点の人件費上昇、エネルギー価格の高止まりが事業採算を圧迫しました。配達員を全国津々浦々に走らせる維持コストが跳ね上がった結果、従来の料金設定では1通配達するごとに赤字が膨らむ状態に陥っていたのです。
第3に、消費税増税分を除く純粋な基本料金改定が約30年間凍結されていたことが挙げられます。1994年にハガキが41円から50円に引き上げられて以降、52円や62円、63円への改定は消費税の転嫁に過ぎませんでした。30年分のインフレや社会環境の変化を吸収しきれなくなり、今回の約35%という歴史的な値上げ幅に至ったという経緯があります。