「折れず、曲がらず、よく切れる」。相反する要素を同時に成立させるという物理的矛盾を克服した点にこそ、日本刀が世界最高峰の伝統工芸と呼ばれる理由がある。原料となるのは、砂鉄と木炭をじっくりと焚き上げて作られる極めて純度の高い鋼「玉鋼(たまはがね)」だ。
刀工たちは、固さの異なる鋼を幾重にも折り返し鍛錬し、組み合わせる。熱した鋼を叩き、伸ばし、再び折り畳む工程を何度も繰り返すことで、内部の不純物が外へ出され、強靭でしなやかな構造が生まれるのだ。鎌倉時代の伝説的な名工・正宗が遺した刀剣は、その最高到達点と言える。刃に現れる波のような模様「刃文(はもん)」や、かすかにきらめく「沸(にえ)」の粒子は、過酷な鍛錬と水の火入れという極限のドラマが生み出した芸術そのものである。