ネット上のQ&AサイトやSNSを見渡すと、「以前もらった抗生物質が効いたので、喉が痛くなった時のために残してある」「病院代を浮かすために家族の余り薬を飲んだ」といった書き込みが散見されます。しかし、この行為は医療上、最も危険視されるタブーの一つです。
とりわけ抗生物質の使用期限と残り薬の保管に関しては、社会的な脅威につながる深刻な盲点が存在します。
抗生物質(抗菌薬)は、体内に入り込んだ特定の細菌を根絶するために、病状や体重、感染部位に合わせて「決められた血中濃度を一定期間維持する」よう緻密に計算されて処方されます。症状が一時的に和らいだからといって自己判断で服用を中断し、余った錠剤を数ヶ月後に中途半端な日数(1〜2日分など)だけ再利用すると、体内の細菌を完全に死滅させることができません。
その結果、生き残った細菌が薬剤に対する耐性を獲得し、「いかなる抗菌薬も効かない多剤耐性菌(AMR)」を生み出す原因となります。世界保健機関(WHO)も警鐘を鳴らし続けている通り、不完全な抗生物質の自己服薬は個人の体調不良にとどまらず、社会全体に難治性の感染症を蔓延させる引き金になりかねません。医師から処方された抗生物質は、指示された期間ですべて飲み切るのが原則であり、万が一余ったとしても絶対に次回へ持ち越してはなりません。
もう一つの根強い誤解が、「薬はすべて冷蔵庫に入れておけば長持ちする」という保管神話です。冷所保存(1〜15℃)が明記されている一部のシロップ剤や未開封のインスリン製剤、坐薬などを除き、通常の錠剤や粉薬を冷蔵庫に入れるのは逆効果です。出し入れする際の急激な温度差によって容器内部に激しい結露が生じ、湿気によってかえって粉薬の使用期限や品質を劇的に低下させてしまいます。