トラウマインフォームドケアを体系化する上で、世界基準として参照されているのが米国の公的機関であるSAMHSA(物質乱用・精神保健サービス局)ガイドラインです。SAMHSAは、組織がトラウマインフォームドであるための要件として「4つの原則(4R)」と「6つの基本原則」を明確に打ち出しています。
組織全体に求められる「4つの原則(4R)」
トラウマインフォームドケアの4つの原則とは、組織がトラウマの影響に対応するための4段階のプロセスであり、以下の英語の頭文字を取ったものです。
- Realize(理解):トラウマが個人、家族、地域社会に及ぼす広範な影響と、回復への道筋を組織の全員が理解していること。
- Recognize(認識):患者、利用者、学生、さらには職員自身に見られるトラウマの兆候や症状に気づくこと。
- Respond(対応):トラウマに関する知識を、日常業務の言葉遣い、制度、手順、プログラムへ徹底的に反映させること。
- Resist re-traumatization(再トラウマ化への抵抗・防止):無自覚な強要や隔離拘束、威圧的な手続きによって、当事者に過去の傷を再体験させないこと。
実践を支える「6つの基本原則」
さらに日常の実践規範として、トラウマインフォームドケアの6つの基本原則が提示されています。現場でのあらゆる判断は、この6項目に照らし合わせて検証されます。
- 1. 安全性(Safety):物理的環境だけでなく、脅かされる心配のない心理的・対人関係的な安全を組織全体で保証する。
- 2. 信頼性と透明性(Trustworthiness and Transparency):組織の決定や手続きをオープンにし、嘘をつかず、一貫性を持った態度で信頼関係を築く。
- 3. ピアサポート(Peer Support):同様の逆境体験を乗り越えてきた当事者同士の支え合いを回復の不可欠な要素として位置づける。
- 4. 協働と相互性(Collaboration and Mutuality):「支援する側とされる側」という上下関係を解体し、パートナーとして対等に意思決定を行う。
- 5. エンパワメント・発言権・選択権(Empowerment, Voice, and Choice):指示に従わせるのではなく、当事者自身が自己決定できるよう選択肢を提示し、自己効力感を育む。
- 6. 文化的・歴史的・ジェンダー的課題への配慮(Cultural, Historical, and Gender Issues):人種、性別、歴史的トラウマ、社会的差別が個人に与える影響を正しく評価し、偏見を排除する。
特に注視すべきは再トラウマ化の防止対策です。支援機関であるはずの病院や児童養護施設で、「言うことを聞かないと退院・退所させられない」「部屋に閉じ込める」といった威圧を行うことは、過去の虐待者と同じ権力勾配を再現することにほかなりません。善意の支援が無自覚の加害に変貌する危険性を防ぐ防壁こそが、これら基本原則です。