アクリル絵の具の汚れに対処する際、多くの人が失敗してしまう根本原因は、「水彩絵の具と同じ感覚で水洗いしてしまう」という初期対応の誤りにあります。学童用の水彩絵の具はアラビアゴムなどを展色剤(バインダー)として使用しているため、乾燥した後でも水を含ませれば再び溶け出し、通常の界面活性剤で洗い流すことができます。
対してアクリル絵の具は、水性エマルジョンという特殊な構造を持っています。絵の具がチューブの中に入っている段階や、塗布した直後の湿っている状態であれば、水で希釈したり中性洗剤を揉み込んでぬるま湯ですすぐだけで簡単に除去できます。しかし、ひとたび空気中の酸素と接触して水分が蒸発すると、アクリルモノマー同士が化学架橋を起こし、耐水性・耐光性に極めて優れた「アクリル樹脂の膜」を形成します。
この状態になると、水分子が樹脂の内部に入り込むことができなくなります。つまり、水だけで洗おうとすることは、プラスチックの破片を水流だけで溶かそうとしているのと同じ状態です。固まってしまったアクリル絵の具を落とすためには、水に頼るのではなく、「有機溶剤で樹脂の結合を膨潤・溶解させる」か、「弱アルカリ性の石鹸と物理的な力で繊維から剥離させる」という、全く異なるアプローチへの切り替えが不可欠なのです。