「毎日5km走っているのに、3ヶ月経っても体重計の針がピクリとも動かない」という悩みは、フィットネス界隈で日常茶飯事のように聞かれます。過酷な運動をしているにもかかわらず、なぜ絞れないのか。そこには人体のホメオスタシス(恒常性維持)が引き起こす3つの生理学的トラップが存在します。
1. 強烈なグリコーゲン枯渇による「グレリン(食欲刺激ホルモン)」の暴走
高強度のランニングは筋肉中のグリコーゲン(糖)を猛烈な勢いで消費します。脳は体内の糖貯蔵量が底をつきかけると、生命維持の危機と判断し、胃から食欲を亢進させるホルモン「グレリン」を大量に放出します。走った後に「無性にラーメンや甘いパンが食べたくなる」「今日走ったから多少食べても大丈夫」という心理的代償行動が重なり、走って消費した300kcalに対し、直後の食事で500kcal以上を無自覚に上乗せしてしまうのです。
2. 疲労によるNEAT(非運動性熱産生)の無意識な急落
運動生理学の世界で重視されているのが「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性熱産生)」です。これは、通勤時の歩行、家事、階段の上り下り、デスクワーク中の姿勢保持など、特別な運動以外の日常動作で消費されるエネルギーを指します。朝や休日にハードなランニングをしてしまうと、午後は疲労感からソファに横たわり続けたり、エレベーターを多用したりと、NEATが1日あたり200〜400kcal単位で激減するケースが多発します。結果として、1日の総消費エネルギーは歩いていた日と変わらない、あるいは下回るという事態に陥ります。
3. 慢性的なコルチゾール分泌による水分の貯留と筋肉分解
普段運動習慣のない人が無理に走ると、身体はそれを「強い物理的ストレス」と認識し、副腎皮質からストレスホルモン「コルチゾール」を過剰分泌します。コルチゾール値が高止まりすると、アルドステロンの作用を介して体内に水分を溜め込みやすくなり、体重がむくみによって減らないばかりか、大切な基礎代謝を司る筋肉を分解して糖新生を行うという悪循環に陥ります。