現在でこそ鮮やかなオレンジ色のかぼちゃが定着していますが、民俗学的な調査記録を紐解くと、カブのジャックオーランタン起源こそが本来の姿であったことが判明しています。アイルランドやスコットランド、マン島などのケルト文化圏の博物館に所蔵されている19世紀初頭の実物レプリカや記録写真を確認すると、当時のランタンは白や薄紫色の硬質なカブ(ルタバガやスウェーデンカブ)を彫り抜いたものでした。
このカブのランタンは、現代のかぼちゃのようなポップさは微塵もなく、干からびた皮膚や落ち窪んだ眼窩、引きつった歯根を連想させる、本物の干し首のような凄惨な佇まいをしていました。民俗研究者の資料によると、当時の村人たちは夜間にこのカブのランタンを手に下げて歩くことで、自身が死霊であるかのように偽装し、夜道で悪霊に憑依されるのを防いでいたと記録されています。
では、なぜカブからかぼちゃへと劇的な転換が起きたのでしょうか。その転換点は1840年代にアイルランド全土を襲った「ジャガイモ飢饉」にあります。数百万人のアイルランド人が新天地アメリカへと集団移民した際、彼らは自国の伝統的なサウィン祭の習俗を携えていきました。しかし当時のアメリカ本土では、彫刻に適した硬い大型のカブが容易に入手できませんでした。
そこで代用品として白羽の矢が立ったのが、アメリカ原産の「ペポかぼちゃ(カボチャ属)」です。秋に大量に収穫され、カブに比べて圧倒的にサイズが大きく、内部の空洞が広いため加工が容易であること。そして何より、内部にキャンドルを灯したときの光の透過性が抜群に美しいことから、瞬く間に「オレンジ色のかぼちゃの顔」へと姿を変え、20世紀以降の商業的ハロウィン文化に乗って世界中へと逆輸出されていきました。