連続テレビ小説『あんぱん』で竹野内豊が息吹を吹き込む柳井清(やない きよし)は、出版社の編集者として海外情勢にも通じ、詩や絵画をこよなく愛した極めてモダンな文化人です。ヒロイン・朝田のぶ(今田美桜)と運命を共にする柳井嵩(北村匠海)の人生の原初に存在し、幼き日の嵩に無限の想像力と「言葉の美しさ」を教え込む重要な役割を担っています。
モデルとなった史実の人物は、やなせたかし氏の実父・柳井清氏です。上海勤務の新聞記者・編集者として活躍し、当時としては破格のグローバルな視野を持った人物でしたが、やなせ氏がわずか5歳の時に中国・蘇州の地で病のため客死しました。朝ドラ『あんぱん』の相関図においても、清は物語の黎明期を彩りながら、その後の家族の命運を大きく揺るがす起点として描かれています。
竹野内豊が醸し出すノーブルな佇まいと憂いを帯びた眼差しは、大正から昭和初期のハイカラな空気をまとう柳井清の人物像に恐ろしいほどの説得力を与えています。父が遺した絵の具や詩集、そして遠い異国の記憶が、のちに嵩が過酷な戦争をくぐり抜け『アンパンマン』という奇跡の結晶を生み出すための「消えない種火」となる構造が、脚本の随所に張り巡らされています。