物理的な血管除去を終えたあん肝は、浸透圧の原理を利用した化学的な臭み抜きへと移行します。ここで極めて重要なのが、塩の計量と時間の管理です。目分量で塩を振る行為は、過剰な水分流出によるパサつきや、逆に脱水不足による生臭さの残留を引き起こします。
プロが現場で徹底しているあん肝の塩振りの黄金比は、「下処理後のあん肝の総重量に対して3〜4%」です。例えば、正味250gのあん肝であれば、使用する粗塩は7.5g〜10gが厳密な適正値となります。
バットに薄く塩を敷き、開いたあん肝を並べた上から、高い位置から均一に塩を振りかけます。この状態で冷蔵庫に静置する時間は30分〜40分。浸透圧によって、細胞膜を通して内部の余分な水分とともに臭み成分を含んだドリップが激しく排出されます。時間が短すぎると脱水が不完全になり、長すぎると脂の旨味まで抜け落ちて組織が硬直してしまいます。
脱水が完了したら、冷水で表面の塩と浮き出たアクを素早く洗い流し、清潔なペーパータオルで水気を完全に拭き取ります。次に行うのがあん肝の酒浸け時間の管理です。
酒に浸す目的は、アルコールによるマスキング効果(臭みの抑制)と、日本酒に含まれる有機酸やアミノ酸による保水・調味効果にあります。バットにあん肝を戻し、ひたひたになる程度の上質な料理酒(または純米酒)を注ぎ入れます。酒浸けの最適時間は20分〜30分。これ以上浸すとアルコール臭が強くなりすぎて肝本来の風味が損なわれ、短いとマスキング効果が十分に得られません。