飲食店のレビューやSNSの投稿を観察すると、「キーマカレーを注文したのに汁気が多くてガッカリした」「ドライカレーなのに炒めご飯じゃなくてペーストが出てきた」といった現場の困惑の声が後を絶ちません。ここには、日本のメディアや即席カレー市場が生んだ2つの構造的な誤解があります。
最大の盲点は、「キーマカレー=汁気がない料理」という誤認です。本場インドの代表的な家庭料理「キーマ・マタル(グリーンピースとひき肉のカレー)」を取り寄せてみると、トマトや玉ねぎの水分、ヨーグルトを活かした濃厚なグレービー(汁気)がたっぷりと含まれています。スープカレーのようにサラサラとしたキーマカレーを提供する名店も決して珍しくありません。
なぜこの誤解が定着したのか。その背景には、1980〜90年代の日本のカフェブームがあります。当時、若い世代に向けて「ワンプレートでおしゃれに盛り付けられるメニュー」として、汁気が垂れない濃厚なひき肉カレーが「キーマカレー」の名で大々的に打ち出されました。その結果、「キーマ=水分のないそぼろ状のカレー」という固定観念が日本国内に刷り込まれたのです。
調理現場におけるもう一つの盲点は、味付けの骨格です。ドライカレーはケチャップやウスターソース、ブイヨンといった洋食の基本調味料を使って「コクと甘み」を補うケースが多いのに対し、本流のキーマカレーはガラムマサラやホールスパイス、生姜、にんにく、塩で素材本来の旨味を引き出す設計になっています。舌に乗せた瞬間の風味の立ち上がりは、まさに洋食と本格アジア料理の決定的な分水嶺です。