取材現場や各種コミュニティの声を丹念に追っていくと、年収800万円層が直面している精神的な葛藤が浮き彫りになります。SNSや大手掲示板、Q&Aサイトには、華やかな額面とは裏腹な悲哀が溢れています。
「商社勤務で30代前半、念願の年収800万円に到達した時は勝ったと思った。だが都内の賃貸マンションの家賃、同僚との付き合い、仕事着への投資を引くと、手元に残る金は20代の頃と大して変わらない。毎月の手取り37万円では、少し外食が続くだけで簡単に赤字転落する」(32歳・大手専門商社・独身男性の手記より)
「夫の年収が800万円になり、専業主婦として子どもを私立小学校に通わせようと調べ始めたが、絶望して断念した。学費や習い事代を払えば、家族旅行の費用すら捻出できない。世間からは『高給取りの奥様』と見られるのが逆に苦痛でたまらない」(38歳・主婦・子ども2人の証言)
こうした声が示すのは、年収800万円という立ち位置がもたらす「心理的インフレ」と実情の乖離です。年収が上がると、人は無意識のうちに住居のグレードを上げ、食材をオーガニックに変え、子どもの習い事を増やしてしまいます。しかし実際の手取り月額は30万円台後半。地方であれば十分な富裕層ライフを享受できる水準であっても、地価と物価が高騰を続ける東京23区や首都圏近郊では、中流の上位にとどまるのが冷徹な現実です。