伊東楓氏がTBSを退社する意向を公表したのは、2021年1月に放送されたTBSラジオ『伊集院光とらじおと』の生放送中でした。パーソナリティの伊集院光氏が見守る中、自らの口で「2021年2月いっぱいでTBSを退社し、ドイツで絵の勉強をする」と語った瞬間、スタジオの空気は驚きと温かい祝福に包まれました。
当時、入社5年目というアナウンサーとして最も脂が乗り、報道からバラエティまで主力を担っていた時期の決断です。世間では「局内の人間関係が悪化していたのではないか」「将来への不安による突発的な行動ではないか」といった憶測も一部で飛び交いましたが、実際の動機は極めて前向きかつ切実な自己探求にありました。
彼女は自著である絵詩集『完璧じゃない、愛おしい世界』や当時の手記において、アナウンサーという職業に対する深い敬意と同時に、抱えていた葛藤を赤裸々に吐露しています。「他者の言葉やニュースを正確に伝えるプロフェッショナル」としての役割を全うする一方で、自身の内側から溢れ出る感情や違和感を、決められた枠組みの言葉だけで表現しきれないもどかしさを募らせていたのです。
心身のバランスを模索する中で出会ったのが、幼少期から親しんでいた「絵を描くこと」でした。キャンバスの上では、アナウンサーという肩書も、求められる正解も存在しません。自分自身の弱さや不完全さをそのまま肯定できる創作活動に没頭するうち、彼女の心の中で「言葉と絵を融合させた表現者として生きていきたい」という決意が確固たるものへと変わっていきました。