なぜTBSの名演出家として知られる久世光彦氏は、お茶の間の反発を恐れずに女湯シーンを挿入し続けたのでしょうか。久世氏の自著や当時の回想録によると、その根底には「徹底した生活感の再現」と「人間の哀歓の描写」という明確な演出哲学がありました。
久世氏は生前、「銭湯を舞台にしたドラマで、湯気が立ち込める女湯に裸の人間がいないのは嘘になる。人は風呂に入るとき、着飾った鎧をすべて脱ぎ捨て、最も無防備で純粋な姿になる。その日常の美しさと切なさを描きたかった」と語っています。スタジオ内に本物の湯を沸かせる巨大な銭湯セットを組み、湯気と照明のコントラストによって、単なるエロティシズムを超えた「昭和の叙情詩」へと昇華させたのです。
また、堺正章演じる従業員の健ちゃんや左とん平、樹木希林らが繰り広げるテンポの良いギャグやドタバタ劇と、静かで官能的な女湯の対比が、番組全体に独特のリズムと深みを与えていました。