生態的には毎年相手を変えるオシドリが、なぜ東アジア全域で「永遠の夫婦愛」の象徴となったのでしょうか。その鍵は漢字表記である「鴛鴦(えんおう)」と、古代中国の文学的伝承にあります。
漢字の「鴛」はオシドリのオスを、「鴦」はメスを指します。2文字が揃って初めて1つの種を表す構造自体が、男女の調和を連想させました。
決定的な影響を与えたのは、中国の志怪小説集『捜神記』(4世紀頃)に収められた「韓憑(かんぴょう)夫妻の悲話」です。宋の君主によって引き裂かれ、非業の死を遂げた韓憑とその妻の墓から生えた2本の木が寄り添い、その枝に一対の鳥(鴛鴦)が巣を作って鳴き交わしたという伝説から、「鴛鴦の契り(えんおうのちぎり)」という故事成語が誕生しました。この文学的ロマンティシズムが平安時代の日本に伝来し、冬場に密着して泳ぐ視覚的印象と合致した結果、今日に至る文化的メタファーが固定化されました。