数多あるカクテルの中で、マティーニが別格の「カクテルの王様」として君臨する最大の理由は、配合のシンプルさと無限の奥深さにあります。レシピの基本はジンとドライベルモットを冷やして混ぜ合わせる(ステアする)だけ。余計な果汁やシロップで誤魔化せないからこそ、使用するボトルの銘柄、氷の質、ステアの回数、温度管理によって味わいが劇的に変化します。
その誕生のルーツには諸説存在します。代表的なものが、19世紀中頃の米カリフォルニア州マルティネス(Martinez)のバーで誕生した「マルティネス・カクテル」が進化したという説です。また、イタリアの老舗リキュールメーカー「マルティーニ・エ・ロッシ社」のベルモットが使われていたことから名付けられたという説も有力視されています。
時代が下るにつれて、甘口だったレシピは徐々に辛口(ドライ)へとシフトしていきました。第61代英首相ウィンストン・チャーチルは「ベルモットのボトルを眺めながらジンを飲んだ」、文豪アーネスト・ヘミングウェイは「極限までドライなマティーニを愛した」といった伝説的なエピソードが残るほど、マティーニは権力者や表現者たちのこだわりを映し出す鏡として神格化されていきました。