愛犬の足裏から、ふとした瞬間に香ばしいポップコーンやコーンチップスのような匂いが漂ってくることに気づいた読者も多いだろう。この香りの正体は、犬の皮膚に存在するプロテウス菌やシュードモナス菌といった常在菌が分泌物や角質を分解する際に放つ有機化合物に由来する。乾燥した清潔な状態で微かに香る程度であれば、皮膚のマイクロバイオームが機能している生理的な証拠であり、過度に心配する必要はない。
一方で、愛犬が前足や後足を執拗にペロペロと舐め続ける姿が見られる場合、話は一変する。犬が肉球を執拗に舐める原因は、大きく分けて「身体的要因」と「心理的要因」の2系統が存在する。
身体的要因として最も頻度が高いのは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、ノミ・ダニなどの寄生虫による強い痒みだ。また、散歩中に植物のトゲや細かいガラス片が刺さった外傷性の痛み、あるいは関節炎の痛みを紛らわすために近接部位である足先を舐める行動も獣医臨床現場で日常的に確認されている。湿潤した環境を好むマラセチア(酵母菌)が異常増殖すると痒みは倍増し、舐める行為がさらに患部を湿らせるという悪循環を生む。
見落としてはならないのが、留守番の長期化や運動不足、同居動物との関係悪化からくる心理的ストレスや分離不安だ。犬は退屈や孤独感を紛らわすための常同障害として、前足を舐め壊してしまうことがある。皮膚表面の観察にとどまらず、日頃の生活リズムや飼育環境の変化にも目を配らなければならない。