看板や診察券に並ぶ肩書として、一般の患者が最も混同しやすいのが「医療法人の理事長と院長の違い」です。この2つの役職は、担当する領域も法的な根拠法令もまったく異なります。
理事長は、医療法人の最高執行機関である理事会のトップであり、法人全体を代表する法的な経営責任者です。契約の締結、銀行からの資金調達、人事権の行使、事業計画の決定など、企業でいう「代表取締役社長」に相当します。医療法第46条の6の規定により、理事長は原則として「医師または歯科医師」でなければなりませんが、後継者難などの正当な理由があり都道府県知事の認可を受けた場合に限り、医師資格を持たない親族などが就任する特例も存在します。
一方の院長は、医療法上で「管理者」と位置づけられる現場の臨床責任者です。病院や診療所の施設ごとに必ず1名配置することが義務づけられており、医薬品や医療機器の安全管理、診療体制の監督、院内感染の防止対策など、医療安全と臨床現場のガバナンスを一手に引き受けます。院長は法律上、必ず「医師または歯科医師」でなければなりません。
個人開業医が法人化した場合、初代は「理事長兼院長」として1人で両方を務めるのが通例です。しかし、医療法人が複数の分院を展開する段階に入ると、本院の理事長が法人経営に専念し、各分院には勤務医を「分院長(管理者)」として配置する分業体制が敷かれます。ここでも「経営権を持つ理事長」と「現場医療を司る院長」の意見対立が経営危機を誘発する引き金になりやすく、両者の役割権限を明確化しておくことが組織崩壊を防ぐ前提条件となります。